Answer
腹腔鏡下ヘルニア修復術は鼠径部切開法と比較して早期社会復帰を目指す両側ヘルニアの症状に適している。
両側ヘルニアに対する腹腔鏡下ヘルニア修復術は再手術が高いという報告もあり、手技に習熟した外科医が行うべきである(推奨グレードB)。
※「鼠径部ヘルニア診療ガイドライン 2015」47頁より
解説
両側鼠径ヘルニアに関して腹腔鏡下ヘルニア手術と鼠径部切開法を比較したメタアナリシスやsystemic reviewの報告はない。
Lichtenstein法と比較した小規模(100例以下)のrandomized control trial(RCT)では、腹腔鏡下ヘルニア手術は手術費用が高いが、手術時間は短く、術後疼痛が少ないため仕事復帰までの期間が短い と報告されている。
さらに、Lichtenstein法との128例のnon RCTの検討で、腹腔鏡下ヘルニア手術は手術時間が短く、術後の合併症が少なく入院期間が短いという報告もある。
腹腔鏡下ヘルニア手術における両側ヘルニアと片側ヘルニアの比較検討では手術時間以外の結果は同等である。
したがって、鼠径部切開法に対する腹腔鏡下ヘルニア手術の利点は両側ヘルニアでも片側ヘルニアと同様に得られると考えられる。
EHSのガイドラインでも、社会経済的に早期に仕事復帰を望む人で、特に両側ヘルニアの症例に対してGrade Aで腹腔鏡下ヘルニア手術が推奨されている。
また、腹腔鏡下ヘルニア手術は両側ヘルニアでも片側ヘルニアと同様のポートで手術が可能であり、2ヶ所の切開が必要な鼠径部切開法と比較して美容的な利点がある。
ただし、初発両側ヘルニアに対する腹腔鏡下ヘルニア手術はLichtenstein法より再発によると考えられる再手術率が高いという報告があり、腹腔鏡下ヘルニア手術は経験のある外科医が行うべきである。
※「鼠径部ヘルニア診療ガイドライン 2015」47頁より
(ただし、太字への変更及び下線*は筆者)
注記*
このCQにおいても参考文献はすべて海外のもので、若干古い文献が多いです。
傷の大きさや手術時間が比較されていますが、腹腔鏡下ヘルニア手術の最も優れていることの一つは臍を5mm程度切開し、そこから挿入した腹腔鏡によって、すべての鼠径ヘルニアの診断が可能となることではないでしょうか?
術前に診察やCTで診断困難な症例、De-novo型 pantaloon型 など、まず病型診断が確実に行うことができます。
そのうえで、MPO中心に必要なメッシュで覆うことが出来ます。
また、社会復帰という意味では、皮膚切開の大きさではなく、鼠径管前壁を中心に切開剥離を実施することが影響するのでしょう。
腹腔鏡下ヘルニア手術ではポートを挿入する部位の皮膚・筋肉・筋膜に穴は開けますが、縫合する必要があるほどの傷は作りません(皮膚以外)。
そういった意味では、傷の痛みも少ない、ということになります。
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